人事考課の具体的表現が評価矛盾を最小化する

「神でもない人が人を評価する」 「それも、価値観も生い立ちも異なる凡人である人間が」

人事考課が難しいのは、今に始まった事ではありません。 どの法人組織も頭を悩ませ、場合によっては私達のようなコンサルタントを頼って、 人事考課を何とか運営している所も多いようです。 私達もこれまで、いろいろな評価尺度を使って、人事考課の現実性を追求して きました。 一般論や本に書いているものをそのまま使うコンサルタントや社労士とは一線を 画して、現場での評価の具体的な文言づくりを重要視してきました。 しかしそれでも、いざ評価点数を入れてもらうと、各自の評価のばらつきが出て、 システムとして、甘辛調整や多面評価での平均調整等、小手先のテクニックを 使わざるを得ない状況です。

ある病院では、各管理者に評価配点をしてもらったものを、再度事務部が調整をして、昇給額や賞与を決めています。 管理者は職員に対して、「何故、〇〇円上がったのか」の説明ができないまま、 更に管理者による評価面談もおざなりにされています。 そこで何故、評価内容をブラックボックス化するのかと事務長に聞いてみると、 「こんな評価誤差や、偏った結果のまま、昇給・賞与を決めたら大変な事になる。 だから、こちらで院長や看護部長に聞きながら調整している」 と言う返事でした。 

事務長の気持ちは十分理解できますが、それでは評価をして、職員の教育効果 を狙う人事考課とは言えません。 もっとひどい例では、評価データを事務長がそのままコンサルタント会社へ渡し、 昇給・賞与の結果が、コンサルタント会社から送られてきて、それをベースに支払って いると言うとんでもない事をやっているところもあります。何故、実際の現場を見てもいないコンサルタント会社が、賃金・賞与を決める事が できるのか? 人事考課をシステムだけで運営し、教育目的を省いた危険な思想と言わざるを得 ません。

人事考課の矛盾を最小化する方法

それはさておき、それではいかにすれば人事考課の矛盾を最小化できるのでしょうか? 現在、私達が指導しているやり方をご紹介します。

基本は、実際に評価を行う管理者と一緒に、評価内容や評価基準を作成する 事です。 先ず、人事考課の内容を現場に合った形で「再表現」させます。 これは例えば、「仕事の正確さ」とか「責任感」などのカテゴリーから、管理者が部下 を見る時、どういう基準で判断するかを決めます。 ここでの重要な作業は、『抽象論ではなく、行動名が入っている』事です。

分かりやすい例として、「協調性」があります。 管理者に、「協調性で、どういう事(行動)をしてくれる事が良い協調性ですか?」 と問います。 すると、「皆の事を考えて、謙虚な事」などの抽象論を言う人が結構います。 そこで私達が、「そんな事ではなく、どんな行動に現れますか?」と何回も聞きます。 そのうちに、ある管理者が「やっぱり、勤務変更や勤務希望が多いのは、困るよね。 協調性が保てない」と言ったとします。 すると、評価基準に「勤務変更や勤務希望が多いことはないか」と言う表現が出て きます。

こういうように、「規律性」・「積極性」・「協調性」・「責任性」などの大きなカテゴリー から、それに必要な評価項目の、それぞれの抽象論を具体的な行動や固有名詞 に置き換える「再表現」が第1作業と言えます。

次に、先ほどの「勤務変更や勤務希望が多いことはないか」の評価を5段階で 決めなければなりません。5段階と言うのは、 「5点=大変良い(模範的である)」 「4点=良い(明らかに評価できる)」 「3点=普通によい」 「2点=少し悪い・不足(ちょっと劣る)」 「1点=悪い(問題である)」 などと分ける事です。

ここで、『3点』が「普通に良い」とした事です。 本来3点は、「普通・可もなく不可もなく」ですが、一般には「普通に良いですよ」 と評価する事が多いのが日本人です。 従って3点は、可もなく不可もなくではなく、「ちょっとだけ良い」と言う事が基準に なります。 そして、評価点数が5段階と決まったら、5点とはどういう事をさすのか、3点とは どういう事をさすのかを決めなければなりません。 ここにこのノウハウがあります。私達が「考課者訓練のいらない人事考課表」として指導している中核部分です。この「考課者訓練のいらない人事考課表」について、今回は詳しく 述べたいと思います。

毎回、人事考課を行う前に、管理者に対して「考課者訓練」を実施している所 があります。 考課者訓練自体を否定するつもりはありませんが、その進め方に疑問符がつきそうな 指導者の基で行われているものも多々あります。その証左に、ある介護施設の施設長に「考課者訓練の成果はどうですか」と質問 したところ、「最後は鉛筆なめなめになるけど、しないと不安だから」との答え。 考課者訓練が毎回必要な理由は、考課基準に具体性がないからです。 どうとでも取れる表現の考課表なら、何百回実施しても、評価の基準が揺らぎ、 ましてや評価する上司が変われば、その度に、異なる結果になります。「考課者訓練のいらない人事考課表」とは、『理想であって、そんなのはできない』 と、言われる専門家と称する人もいます。 確かに、100%完璧なものは無理に決まっていますが、考課者訓練の労力や 費用と、その効果性を考えた時、「考課者訓練をしなくても、それと同等程度の 評価結果を導けるのなら、それに越した事はない」と思っている人は多いと思います。

「考課者訓練のいらない人事考課表」のポイント

「考課者訓練のいらない人事考課表」のポイントは、5点各点の評価毎に、 詳細な行動内容が記されている事なのです。 それもある程度の固有名詞で。 行動内容や行動頻度なら、見る上司が変わっても、極端な誤差は生まれません。

事例で説明しましょう。考課カテゴリーの「規律性」で、「勤務変更や 出社時間」と言う考課項目の中に、「勤務希望及び変更要望が著しく多い事は ないか」と言う評価要素がありました。これは、変更要望しない事が前提ですので、5点の最大点はありません。 1~4点までになります。

その1点は、「良くわからない理由や、度重なる変更要望がある」となります。 家族の都合でもなく、また評価期間中に複数回あったと言う事は、はっきり分かる かと思います。

2点は、「家庭の都合で、勤務変更はある」となります。 まだ小さい子供を抱えているなら、2点のケースも多いことでしょう。また、介護者 を抱えていてもこんなケースはあります。 「家族の都合で、本人の努力不足ではないのに、2点をつけられるのは納得いか ない」と言う人もいますが、これは事実ですので、その分は違う所でカバーしてもらう ように指導すべきです。 そうしないと、勤務変更を全くしない職員との評価差が生まれません。

3点は、「病気けが等の不可抗力以外で勤務変更はない」となります。 不可抗力での事故やけがは、後から有給処理するケースもありますので、それ以外 は全くないのが「普通」と言えます。 前回も述べましたが、「普通」とは「普通に良い」と言う事を指しますので、「可もなく 不可もなく」より若干上位だと思ってください。本来なら、『まったくないのが3点』になりますが、では4点なら、どんな事かと言うと、 「本人の勤務変更はなく、他人の変更を受け入れてくれる」となります。 勤務変更がないのは当たり前で、更に他人の変更を受け入れてくれるという事は、 シフト上も助かる事を意味します。 そんな人は高い評価で構わないでしょう。

このように、各評価項目の中を、点数毎に、ある程度具体的に分かり易くする事で、 極端な評価結果誤差をなくす事が、「考課者訓練のいらない人事考課表」 と言う事になります。「どうして、4点だと思うか」と質問されたら、これなら答えやすいと思います。 こういう表現を使う事で、評価の合理性と効率性を高める事が大事だと言えます。

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