不払い残業でトラブルにならない仕組み

今、世間では過払金請求訴訟が落ち着きつつあるようです。ラジオCMでも、多くの弁護士事務所や弁護士法人が「過払金請求」をPRした結果でしょうか、大手の消費者金融は倒産し、請求権を持っている消費者金融利用者も減少したという事でしょうか。

しかし、ここで新たな動きが出ていると聞きます。電通問題を言うまでもなく、それは、過払金請求に合わせて多くのスタッフを抱えた弁護士事務所が新たなターゲットとして「中小法人への不払い残業代請求」を支援するという動きです。サービス残業が存在しているのを知っているのに、目をつぶっている病院や施設もあろうかと思います。

こういう法人に対して、「辞めた職員」が後から牙をむく行動が現実化しつつあるのです。今いる職員は、今の職場で問題があっても表沙汰にしたくないので、黙っていることでしょう。しかし、辞めた職員は、前務めていた職場が嫌いなら、より一層法人を守るようなくびきはありません。

そして、同じ辞めた職員を募って集団訴訟に持って行くケースがあるのです。おそらく、そういうやり方を、誰もが知っているとは思えません。そこに、弁護士事務所が相談に乗って、労働者を支援する形で、攻めてくるのです。仮に不払い残業があっても、1人だけなら、請求金額もしれています。

しかし、過去に辞めた職員を募れば相当の金額になり、かなり高額なものになります。こういう労働債権は2年間の有効期間があるので、辞めた後でも十分に権利行使が可能です。更に、単純な不払い残業請求以外にも、パワハラやセクハラなどの精神的な苦痛を追加して慰謝料請求まで行くケースもあるようです。こうなると、単なる不払い請求ではなく、時間とコストのかかる裁判になっていきます。

そこで、こんな本業と関係ない無為な労力や費用を使わない為にも、日頃から準備が欠かせません。今回はどういうケースが問題になるかをご紹介したいと思います。

問題となるケース

先ず、「残業は指示していません。本人が勝手にしたのだから、不払いに該当しない」と言う法人側の言い分です。

しかし、「見て見ぬふり」は黙示的な残業指示と判断されるケースがあるようです。仕事の量や期限が時間内では無理と分かっているような業務なら、言葉で指示しなくても、同じ状況と判断されるようです。特に、この手の問題に用心深い職員は毎日、メモを取っている可能性もあります。実際の裁判ではこういう事実を書いたメモは重要に参考資料になるそうです。

本当に「本人の仕事の遅さ」が原因なら、他の人と同じような仕事量なのに、この人だけが遅いという事実も指示側は準備しないといけません。いずれにしても、自主的な残業については目を光らせる事が必要です。

また、残業を許可する管理者のいい加減なマネジメントが原因になるケースもあるので、定期的にこういう勉強会をした方が良いようです。

次に、管理者だから「残業代は発生しない」と高をくくっていると大変な事になるという事です。以前TVでも自動車メーカーや大手ファストフードチェーンの「名ばかり管理職」が話題になりました。要は、明確な職務権限や裁量権のない管理職には「名ばかり管理職」として残業代が発生するという事です。

労基法上の「管理職」の解釈

下記に労基法上の「管理職」の解釈についてご紹介します。

  1. 管理職とは、法人の役職で規定されるものではなく、勤務の実態から判断される
  2. 管理監督者の「職務内容」「権限」「責任」等が、経営者と一体的な立場又は部門を統括する立場かどうか(経営会議参加者や、採用面接の決定権、部門統括者と自己判断を尊重される立場等)
  3. 勤務態様、労働時間管理で、自由裁量をある程度持っているか(遅刻早退があっても給与減額がない。上司に許可を取らず直行直帰が可能な立場等)
  4. 待遇は、その地位、権限に相応しいか(役職手当や年収が一般社員や時間外が発生する管理職よりも明らかに高額である事)
  5. 管理監督者でも「22時~5時」までの深夜労働では深夜割増賃金が発生する(H21.12月最高裁)…深夜割増分を含めた手当増や雇用契約書や就業規則への明記が重要 今まで、曖昧にしていた事が今後、リスクになる可能性が出ています。

労働法は原則として、労働者の立場に立った法律であり、法人や経営者を守る者ではありません。

不払い残業問題

これは、制度をしっかり構築することに尽きます。残業時間管理をしっかりしていないと、残業代請求に反証できず、丸のみになる可能性もあるからです。一般には、先ず規定を整備する事が求められます。

規定を作成するという事は、その規定通りに運用する事なので、業務の改善が不可欠になります。

以下のいくつかの規定のポイントを紹介します。

(1) 残業は業務命令でなければ行えない事を規定に入れる

勝手な残業を阻止、時間外が業務上の指示で行われる事であり、職員が自己判断でする事は禁止します。但し、上司がしっかり管理しなければならないのは言うまでもありません。従って、事前許可制や申請書等のルールが必要になります。ここで注意すべきは「黙示の残業命令」と言われる事項です。明確に指示しなくても、当日中の仕事量の多さやサービス残業しない事のマイナス評価、上長の暗黙の指示等があれば、残業指示と扱われます。

(2) 就業規則へ「〇〇職以上には労働時間等の規定は適用しない」と明記する

「名ばかり管理職」として管理監督者にあたらないと指導があった場合、役付手当の一部を残業代見合いの手当として規定しておくとよいでしょう。

(3) 定額残業手当と言う考え方

外部で業務を行い、「みなし労働」とは認定されにくいものは、職務手当の文言に「一賃金計算期間において〇時間分の時間外勤務見合いの手当として支給」を明記するとよいでしょう。しかし、それに相応しい手当増額は必要になります。またそれを越えた分は時間外支給対象なので、事前申請や許可を徹底させる事です。

(4) タイムカードが問題になる事も

法人側の主張は「タイムカードは単に出社退社時間の意味しかない」と一般に主張されますが、これしかない場合、時間外の計算基礎となる以上、その時間が労働時間と判断される可能性があります。業務日報等で実際に労働時間をしっかり書かせる等の工夫も必要かもしれません。早く来ても、ダラダラしたり、業務が終わっているのにダラダラ残っていてもタームカードは在社時間になります。

(5) 最近はパソコンのログデータを基に残業時間を推認するケースがある

パソコンの立ち上げ時間が問題になるケースです。自宅でパソコンで業務をした場合、その作成時間等が労働時間と推認される場合があるので、自宅作業も許可制等が必要です。今まで、何ら問題にならなかった事が、職員の退職後に牙をむいて組織に向かってくる時代です。感情論や精神論で組織運営せず、規定とルールで「見える化」して、マネジメントする事が今後必要な事かも知れません。

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