事業承継失敗物語1(後継者の拙速な戦略転向で業績悪化)

今回から不定期で、「実録 経営承継失敗物語」の事例を掲載します。第1回目は、【後継者の戦略判断ミスで、業績悪化した内装建具会社】の事例です。この事例から、あなたは何を感じるでしょうか?

A社は九州に本拠地を置く内装、建付け家具、建具などの建設関連企業である。元請であるゼネコンや建設会社、ハウスメーカーの協力企業として長年、経営をしてきた。 先代社長は職人出身であり、「丁寧な仕事こそ、繁栄の証」というモットーで、元請からも評価が高かった。

但し、ある大手ゼネコンのマンションやアパートなどの下請では、あまりの利益の少なさに「働けど働けど、わが暮らし楽にならざる」のように、従業員の賃金も低く、若手も育たない状況だった。長男である後継者も、高校卒業後、親と一緒に現場で働いてきていたので、現場の厳しさも利益率の悪さも肌で実感していた。そこで、後継者を将来、経営者にする為に、承継前に5年位営業の仕事をさせるようにした。現場ばかりしていても、営業の仕事が分からなければ、経営者になれないと考えたからである。

後継者が営業をする中で、利益率を計算する勉強をした。

そこで、大手ゼネコンからの新築のRC構造(マンションやアパート)の仕事は、金額こそ大きいが、利益率が悪く手元に残るおカネが少ない。しかし地元住宅会社や直で来る仕事は利益率が高いという事が分かった。単純に利益だけで言えば、大手ゼネコンの仕事を減らし、地元工務店や直請を増やせば利益が残る。そう考えた後継者は徐々に「大手の仕事には高い見積」を出すようにした。すると、当然大手ははその会社を使わない。

急激な受注シフトの変化を会長は嫌い、後継者を説得したが、「会長はしがらみがあってできないだろうけど、今、自分がやらないと潰れる」と押し通した。会長も息子に渡した以上、任せるしかなく、見守ることにした。しかし、地元の工務店や直請が同じレベルの仕事量が即確保できる訳でもなく、一時的な売上ダウンが起きた。

更に、利益が残るはずの地元工務店の仕事や直請の仕事も一つ一つやり方が違い、現場でのロスや手直しが発生し、思ったように利益がで出ない。大手の仕事を減らして、受注構造を変えたのは英断だったが、利益率という数字では見えない部分の分析が不足していた。

確かに大手ゼネコンのRCの仕事は、低利益だがパターンがほぼ同じで、熟練度もあることから、ミスもなく時間も掛かっていない。という事は手直しもなく、効率的だった。

地元工務店からの請けも慣れれば、利益率は上がるが、一番の課題は直請だった。一般のお宅の内装や建具などの受注が、思いのほかトラブルに悩まされ、売上は少ない、手離れが悪い、手直しが多い、見積もりミスが連発、と利益率が悪いだけではなく、信用問題も発生し、会長も新社長も意欲がそがれた。

後継者が考える「あるべき論と現実のギャップ」は、後継者の想像以上に大きかったのだ。

会長は、受注シフトは徐々にすべきと主張した。

しかし、後継者は「それでは何も変わらない、思い切ったチェンジが必要」と主張した。後継者の戦略転換が拙速だったことは言うまでもないが、それ以上に受注シフトの準備段階や仕掛け、冷静な分析が不足していたことだ。

後継者の思考に「大手ゼネコンの受注が諸悪の根源」と映り、大手ゼネコンの仕事のメリットを冷静にみてなかったのだ。それ以上に、小規模な企業が、「大手ゼネコン」「地元工務店」「直請」と三方向戦略をとったことで、職人や技術レベルが分散し、「虻蜂取らず」の状況になったことだ。

一時的な売上ダウンもそれ以降に「ある絞り込み戦略」で、特化すれば復活は可能だが、ちぐはぐな多方面戦略は、むしろ会社をおかしくしたのだ。この企業での経営承継の教訓は、 冷静な分析と絞り込みこそ、後継者が行う業績復活のカギ という事だ。

この事例は「新旧交代の戦略」を急ぎ過ぎて大きなダメージを受けたケースです。決して、後継者の判断が間違っていたとは思いませんが、業種の特性上、もっと丁寧な段取りが必要だった事は言うまでもありません。

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